細菌学教室にようこそ。
当研究室は、1914年に開講し(初代教授 宮路 重嗣)、戦中は当時の特効薬であったペニシリンの製造を担うなど、1世紀を超える足跡を刻んでまいりました。現在私達は、細胞内寄生細菌である結核菌やライ菌、また環境微生物である非結核性抗酸菌(NTM)などの抗酸菌を主な対象として研究を行っています。
結核菌は、現在も単独で最も人命を奪っている病原体ですが、新参のHIVやエボラウイルスと異なり、人類の出アフリカ期から今日まで5万年あまり人に付きまとってきました。2015年のWHOの統計では、無症候感染者の推定数;20億人、年間の新規発症者数;960万人、死亡者数;150万人を数えています。天然痘やペストなど、結核に匹敵した疾患の脅威が淘汰されてきた経緯と対照的で、一旦結核が発生した国において、これまで結核を制圧できた国はありません。結核菌は有史前からのヒトとの長い付き合いを経て、寄生病原体として進化的に叩き上げられてきた細菌です。また結核菌が類縁抗酸菌から病原菌へと進化したように、近年、難治性のNTM症が増加するという不穏な動きもあります。
一方、我々人類も、幾たびの抗酸菌感染の脅威にさらされ、抵抗力(免疫)を獲得・進化させてきました。つまり、結核・抗酸菌症の研究には5万年に及ぶ、菌と人双方の進化ダイナミズムが詰まっています。最大の免疫賦活物質(アジュバント)は、結核菌の死菌(フロイントの完全アジュバント)であることが知られていますが、この免疫賦活機構は結核・抗酸菌症にとどまらず、アレルギーや癌などの難病治療に対しても応用できる可能性を秘めています。
しかしながら疾患制御の基盤となる結核・抗酸菌の感染現象メカニズムが未解明です。寄生に長けた結核菌の感染が成立すると、免疫応答のみでは菌を生体から駆逐できませんが、例えば、「発症を抑制する」、つまり感染菌の増殖を止まったままにし、無症候感染(潜在性結核)を生涯持続させることで、伝播を防ぐと共に感染菌を死滅させることが可能で、その拡大によって疾患を制圧できると気づきました。休眠菌の殺傷薬や発症抑止ワクチンの開発は、我々が現在行っている具体的な方策です。また、そのためにはベースとなる、結核菌の増殖制御や休眠現象(細胞分裂しないが、生き続けるしくみ)を解かなければなりません。
私達は、このような問題に対処するために、『情熱』、『理論的に考え、実践する力』、『知識(時には不要だが)』をもって挑み、真理をひも解いていきたいと思います。また私達自身の発見を基に、結核・抗酸菌症はもとより、癌などの難病に対する新しい制御法を生みだすことを指向します。そしてなにより真摯な研究の営みを通して、仲間をつくり、次世代を担う研究者や医師を育成することを最大の目的といたします。
人も細菌も起源を同じくする生き物、細菌研究を突き詰めれば、それは人を含めた生物全体の理解にも繋がります。
興味をもてば、気軽に、教室の扉を叩いてください。ご連絡、お待ちしています。
新潟大学大学院医歯学総合研究科 細菌学分野
新潟大学医学部医学科 細菌学教室
教授 松本 壮吉
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